昔書いた台本です。
以下、原文ママです。
題名未定な台本。もしくは、「なちゅまちゅり」(ヲイ。
【登場人物】
女1 平たく言えば前回の紗絵と同じです(早)。
非常に天然。嘘をつくということを知らない。人を疑う事を知らない。
よく言えば純粋、悪く言えばただの世間知らず。
名称未決定に付き、名前の所は空欄です。
女2 前回のアキと同じ……だとつまらないので同じではありましぇん。
一番「普通」な人。女1よりは年上のはず。女言葉が多いような。
女1と同じく名称未決定につき、名前は空欄。
男1 「男1」も何も一人しかいないんですが。というのはどうでも良いのですが。
一言でいえば詐欺師。ペテン師。人を騙して世を渡っている人。
テンションは自由自在。冷たい商売人から通販販売風まで。
この人も名前が決まってないのですが、名前の出るシーンが無いので良いかな、と(いいのか)。
【場所】
夏祭りの会場。屋台が立ち並んでいる。
舞台は下図の図参照。
__________________________________________
__________ __________
「 | 「 |
上 /____屋 台____\ /____屋 台____\ 下
|| || || ||
手 || || 奥から || || 手
||男1→ヽ○ノ || / 通路 \ || ||
||___ || __|| / \ ||________||
|――――――――――| / \ |――――――――――| ⊂⊃⊂⊃
| 机 |/ \| 机 | ||||
__________________________________________
↑ ↑
椅子
(観客席)
【音楽】
BGMのことはよくわかりませんが、前編通してお囃子の音が流れてると思ってください。
場面音楽みたいのは良くわからないので書いてません。
あとはチャイムの音とかが必要っぽい。
【その他】
本当にやると「大変な事」になります。
大道具だけでも相当大変です。……読めばわかります。ネコが。
あと、「( )」でくくった指定が多くて読みにくいです すいません。
【では始まり。】
夏祭りの会場。遠くからお囃子の音が聞こえている。
上手の屋台で男1が観客席に向かって叫んでいる。
下手にある椅子に女2が暇そうに座っている。
男1 さぁぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!
ここでしか手に入らない珍品揃いだよ!
今日限りの特別御奉仕!お買い得でしかも良品!
見ていくだけでもOKだ!!
女2 …(つまらなそうに)誰もいないのに叫んでて楽しい?
男1 あ?うるさいな、話してればいつか客は来るんだよ。文句を言うならお前も手伝えよ。
女2 別に、文句があるわけじゃないけど…(男とは反対の方向を向いてしまう)。
男1 ったく。さあさあ、運気上昇、開運グッズはいかがかなぁ♪
男1、口上を並べ立てている。
女1、奥から登場。
女1 (きょろきょろと屋台の中を覗き込みながら歩いてくる)
男1 おおっと!!そこのお嬢さん!!!(女1を指差す)
女1 (自分を指差す)え?あたし?
男1 そうそう、そこのキミ!!今流行りの風水グッズはいかがかな?
女1 えー、おもしろそー。(男の屋台を覗き込む)
男1 (ここぞとばかりに)たとえばこの招き猫ッ!(巨大な招き猫を取り出す。* いちごパンでも可 )
招き猫の標準機能、金運アップだけではなく勉強運に健康運、さらに恋愛運までアップしてしまう優れものだぁぁ!!
女1 ええー!すごーい!!(招き猫を渡されて手に取る)
女2 (ぼそりと)招き猫って風水だっけ?
男1 (ちらりと女2を見るが無視)し・か・も!とぉ~~ってもお値打ち価格!
この大きさで4000円!
女2 高ッ…。
女1 (通販のノリで)えー、安ーい!
男1 フッフッフ、そうだろうそうだろう!!
さ・ら・に!!可愛い子ちゃんなキミにはこの開運だるまもプレゼント!!(キーホルダー位の大きさのだるまを渡す)
女1 すごーい、お得~!!
男1 さぁどうだいお嬢ちゃん!
女1 買いまぁすv(笑って4000円を渡す)
女2 早ッ!
男1 (にこやかに4000円を受け取る)毎度ありぃ♪
女1 わぁい、得しちゃったぁ♪
女1、スキップしながら招き猫を抱えて上手へ。
女2 (女1がいなくなったのを確認してから立ち上がる)ちょ、ちょっと。
男1 ん?
女2 今の子、いくらなんでも簡単に引っかかりすぎない?
だって、どうせあの招き猫なんてほとんど価値が無いんでしょ?
男1 さぁ?俺の知ったことじゃないな。
彼女が価値があると思うなら価値がある。そうだろう?
女2 でも…。
男1 あー、うるさいな。
文句を言うなら俺の側になんていなければいいっていつも言ってるだろう。
くだらないこと言ってるんなら帰れよ。
女2 う、うん……。
女2、椅子に座りなおそうとするが立ち上がり、上手へ行く。
男1 おい、どこへいくんだ?
女2 別に。関係ないでしょ。(上手へ去る)
男1 (しばらく上手を見ているが、気を取り直したように観客席へ体をむける)
さぁ、安いよ、お得だよ!ここでしか手に入らないお値打ち品…。
暗転。
屋台に人は居なくなっている。
女1、招き猫を抱えて上手から歩いてくる。
女1 (適当に節をつけて)おッ買いッ得ぅ~~♪おッ買いッ得ぅ~~♪
(上手の屋台を覗き込んで)あっ!可愛いお面~vおじさ~ん、ここにお金置いとくねー。(屋台に代金を置いてお面をとる。)
お面ッ~♪お面ッ~♪
(下手の屋台を覗き込んで)あっ!可愛いりんご飴~vおにいさ~ん、ここにお金置いとくねー。(屋台に代金を置いて飴をとる。)
女2、上手から出てくる。
女2 (影から様子をうかがうように)あの子、4000円も払ったのに屋台の物を端から買ってるけど…。
随分と余裕があるのね…。
女1 あっ!さっきの人!(女2を指差す)
女2 あ。見つかった…。
女1 こんにちはぁ~♪何やってるんですかぁ?
女2 え?あ、あぁ、いや、その、何となく色々お店を見ようかなー、なんて…、はは…。
女1 へぇぇ、じゃあ一緒にお店見ませんかぁ?
女2 一緒に?あ、いやぁ、別に、その……。
女1 そういえば、お名前は?
女2 私?私は、___ 。
女1 へーえ。私は__っていうんだ。___さんはこの辺の人なんですか?
女2 えっ、まぁ…。そうね、この辺、かな?
女1 ふーん、じゃぁ、どこに住んでるんですか?
女2 ど、どこって言われても…。(話をそらすように)あ、そうそう、その招き猫、さっきの?
女1 これ?うんうん、いいよねぇー♪金運だけじゃなく健康も勉強も恋愛もいいんだって。
女2 ……って、本当に全部信じてるの?
女1 違うの?
女2 いや、違うってワケじゃないけど……。貴方、もしかして、雑誌の星占いとか全部信じる方?
女1 もちろん!
女2 ふーん…。じゃぁ、
<!—女2、何か冗談を言うが女1は間に受ける。女2がいくつか冗談を続ける。–>
女2 (女1があまりに冗談を信じすぎるので反応をおもしろがって言う)あっ!UFO!
女1 えっ!!どこ?どこどこどこ??(観客席まで乗り込んで探そうとする)
女2 ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!冗談だってば!!
女1 冗談?(あっけらかんと)なぁんだ。
女2 はぁ、全く…。少しはありそうな事となさそうな事の区別くらいしてよね…。
人を疑うってことを知らないの?
女1 でも、お父さんは人の言う事は全部信じなきゃダメだっていってたよ。
女2 そんな滅茶苦茶な…。
女1 我が家の家訓その一!!「人の言う事は信じる」!!
我が家の家訓その二!!「ウソは絶対につかない」!!
女2 ウソをつかない?
女1 そう!嘘つきは泥棒の始まりだよ。
女2 ふーん…(何か考え込む)。…じゃあ、ピザって10回言って。
女1 ん?ピザピザピザピザピザ……
女2 じゃぁここは?(自分の肘を指差す)
女1 ひざ。
女2 ウソついてるじゃん。
女1 へ?………………………………………あ”あああああああ!!!!!(両手で頭を抱えてしゃがみこむ)
女2 ちょ、ちょっと?
女1 ……ぅぅッ…お父様…先立つ不幸をお許しください……。
女2 えぇ!?
女1 いやぁぁぁぁぁぁ!!ウソついちゃったぁぁぁぁぁ!!もう終わりだよぉぉぉぉ!!!
女2 お、落ち着いて…
女1 (女2の言葉が耳に入らない)お父さぁぁん…うわぁぁぁぁぁん…(泣き出す)。
女2 落ち着いてよ!冗談だってば!
女1 冗談でも…ウソはウソだもん…。うわぁぁぁん…。
女2 でも、今のはひっかけただけだし、本当、ごめんね、ごめんッ!この通り!(頭を下げる)
女1 うっ、うっ…(泣いている)。
女2 だから、今のは悪気があってついたウソじゃないでしょ?つこうとおもってついた訳じゃないんだから、大丈夫だよ、ね?
女1 でもぉ…。
女2 悪気があってついた訳じゃないんだから、仕方ないよ。ね、悪いウソじゃないから、ね。
女1 いいのかなぁ…。
女2 大丈夫だよ、ねッ?
女1 うん…わかった。
女2 はぁ…。(女1に聞こえないように)全く、変な子だなぁ…。ウソついただけで、どうでもいいじゃない…。
アナウンスのチャイムが鳴る(「ピーンポーンパーンポーン♪」みたいな)
アナウンス ご来場の皆様に、お知らせいたします。8時から、中央広場にて、豪華賞品の当たる抽選会が行われます。
皆様、お誘いあわせの上、是非お越しくださいませ。繰り返します…(小さめの音量でもう一度繰り返す)
女2 へぇ、そんなこともやるんだぁ…。
女1 抽選会!?行く行く!!ねぇ、一緒に行こうよぉ!
女2 私は…。いいよ。
…ちょっと用事があるから。ごめんね。
(女1に聞こえないように)あんまり遅くなると、あの人に心配かけちゃうし。
女1 (素直に)用事かぁ、じゃあしょうがないね。行ってきまーす♪
女1、下手に向かって走っていく。
女2 (女1に向かって手を振りながら)本当に、純粋というか、単純というか、なんというか…。
暗転。
最初のシーンのように下手の屋台に男1がいる。
上手から女2が戻ってくる。
男1 随分長かったな。どこ行ってたんだ?
女2 別に…。大したことじゃないよ。
しばらく沈黙が続く。
女2 あの、さぁ。
男1 ん?
女2 さっきの女の子の事、なんだけどさぁ。
男1 ・・・。
女2 何というか…。さっきまた会ったんだけどね。本当に人を疑う事を知らないというか、物事を疑う事を知らないというか…。
何でもかんでも信じちゃって、しかも騙されても気にしないし、自分は絶対にウソをつかないの。
男1 ……だから何だ?
女2 何っていうか…。
男1 (怒ったように一気に)そんなこと俺には関係ないだろう?第一、いいカモじゃないか。そういう奴らのための職業を俺は やってるんだよ。
第一、相手の事を気にするなら、俺なんかについてくるなといつも言ってるだろ。
女2 それはわかってるんだけど…。
男1 さっきから一体何なんだ。そんなにその女のことが気になるのか?いつもは客の事なんて気にも止めないじゃないか。
女2 でも、さっきの子はあまりにも、その…
男1 一人一人のことを気にしていたら身が持たないさ。全く…。
女2 (男1の勢いにおされて)…ごめん。
またしばらく沈黙。
アナウンスのチャイムの音。
アナウンス さて、こちら抽選会の会場です。これから、抽選番号の発表をいたします。
まず、3等、295番の方…。
男1 抽選会、か。お前も行ってくれば良かったのに。
女2 どうせ行っても、私くじ運ないから。
男1 万が一って事もあるだろう?
女2 (先ほどの言い合いの続きで怒ったように)それなら貴方がいけばいいでしょ!?
男1 (喧嘩腰な物言いで)俺は忙しいんだよ。なんだ、それともお前が店番するのか!?
アナウンスが続いている。
アナウンス さて、1等です。商品は各種デパートで使える商品券20000円分。
女2 (仕方なく、話題を変えるように)随分、気前がいいのね。
男1 (機嫌が悪そうな言い方)そうでもしないと人が来ないんだろ。
アナウンス 83番の方、83番の方…。あっ、いらっしゃるようですね。
それでは、見事当選した方に喜びの声をお聞きしましょう。
男1 はっ、そんなのどうでもいいよなぁ…。
アナウンス では、1等に当たった気分はどうですか?
女1の声 ええっとぉ、何だかとっても嬉しいです♪
男1&女2 …………えぇっ!?
女1の声 いつもくじとか当たらないんで、良かったぁ♪あっ、さっき買った招き猫のおかげかな?
女2 ちょ、ちょっと、今の声って…。
男1 さっきの女…だよなぁ?
女2 そんな、ウソ…。
アナウンス とっても運が良かったんですね。おめでとうございます。それでは、次は地元の方による踊りを…
暗転。
場面は変わらない。暗転前よりも男1と女2との距離が遠くなっている。
男1は品物の手入れをしている。女2は特にすることもなく椅子に座っている。
女1が下手から出てくる。
女1 (招き猫と商品券を持って)1等賞~♪1等賞~ッ♪
あっ!招き猫のお店の人に、 さん!
女2 あ…こんにちは。
男1、何か考え込んでいるような表情で腕を組み、女1を見ている。
女1 (女2に向かって)あのね!抽選、1等になったんだよ!!すごいでしょ♪
女2 えっ…うん…すごいね。(少し暗い顔で)おめでとう。
女1 (女2の様子に気づかない)ありがとう~!ねっ、お兄さん。招き猫、本当にすごかったよ!!
男1 ん?ああ、そうだね。
(何かを思いつき、突然テンションが上がる)そーいえばお嬢さん、招き猫を買って超ラッキーなキミにいい事を教えよう!
女1 いい事?
男1 そう!!なーんと、さっきの招き猫よりもっと効果のある商品があるんです!
女1 ええっ!?なになに??
男1 それがこの巨大招き猫!!(人の背くらいの高さの招き猫を取り出す)
実はこの招き猫、効果はさっきのネコの10倍!当社比!
女1 (通信販売のノリで)すっご~い!!
でもお兄さん。そんなおっきなネコさん、もって帰れないよお。
男1 フッフッフ…。だいじょぉ~ぶ!!
このネコはキミの側にいなくても効果を発揮するゾ☆
ちゃ~んとお供え物をしてあげればよいのだ!
女1 「おそなえもの」?
男1 そう!そうすれば10倍の幸運がキミの元に!!
さあどうだいお嬢さん!?
女1 うーん、でも私、お供えするようなもの持ってないよお。
男1 持ってるじゃないか。ちゃーんと。
女1 え?
男1 さっきの招き猫でキミは2万円を引き当てた。では、その2万円をお供えすると、どうなるかな?
女1 え~っと、(指を折って数える)10倍になって、20万円?
男1 そのと~り!!これはお得!!
女1 本当だ!お得!!
男1 それでは早速お供えしてみよう♪
女1 うん♪(商品券を巨大招き猫の前に置く)
女2 ちょ、ちょっと!なにやってるの!?
男1 (女2の口をふさぐ)ははは、この子もキミの幸運を祝福してくれてるぞ~。
いやキミ、本当にラッキーだねぇ。
女1 うんうん、ラッキー♪
男1 後はキミの身に幸運が舞い降りるのを待つだけさ。おめでとう!!
女1 ありがとう~v
女2 ちょっと…(さらに口をおさえられて)むぐむぐ…。
女1 お兄さん、本当に色々有難う!じゃーねー♪
女1、手を振りながら下手へ。
男1 さよ~なら~♪(にこやかに手を振り返す)
女2 (男1の手を振りほどく)ちょっと!!
男1 あ?何だ?
女2 今のはいくらなんでもひどすぎるんじゃないの!?
だって、もともとの招き猫だって100円ショップで売ってるような品物なんでしょう!?
それをただでかいだけの招き猫を使って商品券を巻き上げるなんて……詐欺じゃない!!
男1 (平然と)詐欺だな。
女2 ふざけないでよ!大体…。
男1 何を勘違いしてるんだ?俺は詐欺師だぞ?人にまがいものを売って儲けてるのに「詐欺だ」って言われてもなぁ。
女2 そりゃそうだけど、今のはあまりにもあの子を……。
男1 単純な奴なら利用する。それだけじゃないか。
第一、彼女は100円の招き猫に価値を見いだしてるんだ。もしかしたらでかい招き猫が彼女に幸運を運ぶかもしれないぜ?
女2 商品券が当たったのはたまたまでしょ!?
男1 お前もいちいち五月蝿い奴だな。文句があるなら着いてくんなって、何度言ったらわかるんだ。
女2 ……っ。
女2、下手へ歩いていく。
男1 おい、今度はどこへ行くんだ?
女2 ……。
男1 お前があの女のところに行こうが邪魔はしないがな。俺の商売を邪魔するようなふざけた真似をするのだけはやめておけよ。
女2、無言で下手へ消える。
暗転。
屋台には誰もいない。中央に長椅子がある。
下手から女1がでてくる。
女1 (適当な節回しをつけて)お得ぅ~お得ぅ~♪10倍~♪
女1、長椅子に座る。
女1 10倍かぁ~。すごいなー。きっと、健康運も勉強運も恋愛運も20倍なんだよねー。すごいよねー。(手に持った招き猫に向かって話しかける)
女2、走って下手から出てくる。
女2 (ずっと走ってきたように荒く息をついている)
女1 あれ、__さん。どうしたの?
女2 (無言で女1の隣に座る)。
女1 どうかしたのぉ?
女2 …あなた…。
女1 ん?
女2 (キレる)あなた、何とも思わない訳!?あの男の言う事を本当に全部信じてるの?
あの男は…あの男は…。
女1 「は」?
女2 ……。(何かを振り払うように首を振る)なんでも、ない。
女1 (素直に)ふーん。
女2 …あなた、今までに騙された事って、ないの。
女1 騙された事?うーん、わかんない。
女2 ・・・。
女1 でも、お父さんは、「どんな人も信じてあげなさい」って言ってたよ。
相手が騙そうとしてるかなんて問題じゃないんだって。信じてあげればいいんだって。
女2 ……はは、私も、そうやって考えられれば、いいのかもしれないな…。
女1 __さんのお父さんは違ったの?
女2 私の父親?そんなこと絶対言うような人じゃなかったわ。
(遠くに話しかけるように)……私の両親ね、今どこにいるかわからないの。
女1 わかんない?
女2 (うなづく)。夜逃げしちゃった。私を置いて。
それ以来、会ってないの。
女1 (素直に。真剣そうだが真剣じゃなさそうな感じで)大変だねー。
女2 (一気に)私の父親は、あの男に借金をしてたの。それがどうしても払えない金額になっちゃって、娘を置いていなくなっちゃった。
残された私は、借金を返すためにあの男の仕事を手伝う事になって…。
仕事自体はそれほど難しい事じゃなかったし、数ヶ月で彼は仕事を辞めても良いって言ってくれた。
私がどんなに働いても、お金は返せないって事はわかってたんだと思う。
でも、帰っていいって言われても、私には帰るところもなかった。彼から離れても、もう両親はいない。一人じゃ生きていく方法もわからない。
だから、どんなに彼のしてることが間違っていても、私は離れられない……。
女1 へぇー…。
女2 結局、私が弱いだけだけどね。
……ごめん、突然こんな話始めて。
女1 ううん、別にいいよー。
あっ!あのねあのね、私のお父さんも、「ユクエフメイ」なんだよ。
女2 え?……何で?
女1 うーんとね。私のお父さん、「 」っていう会社でお仕事してたんだけど。
女2 「 」って…。最近、脱税で問題になった…。
女1 うん。で、そのダツゼイなんだけど、会社の人はみんな、お父さんがやったって言うんだって。
でも、お父さん、それは違うんだっていってた。
本当は会社の他の人がやってたんだ。でも、そのことがバレちゃうと、会社全部がダメになっちゃうんだって。
だから、お父さんが1人でやったってことにするって。
女2 そんな…それはウソついてるってことでしょ?
女1 うん……。でも、ウソついたのは私のお父さんじゃないよ。ついてるのは会社の、別の人。
で、その人たちのウソを本当にしてあげるために、お父さんはユクエフメイになったの。
けーさつに行っちゃうと、どうしてもツジツマが合わなくなるんだって。なんだか難しいけど。
女2 ・・・。でも、それは、何だか違うんじゃないの?あなたのお父さんは、ウソをつくのを手伝ったんじゃないの?
女1 うーん、私もよくわかんないよ……。お父さんの考えてた事。
でもね、「ウソをつかない」ってことと、「人の事を信じてあげる」っていうのは、良いことだと思うんだ。
女2 でも、「人のことを信じてあげる」って言っても、それを逆手にとって人をもてあそぶ人もいるんだよ?
それでも良いの?
女1 うーん……。
女2 貴方は知らない所で騙されてるのかもしれないのに……。
そんなの、あまりにも…。
女2、何かを考えこんで女1を見る。
女1 どしたの?
女2 (独り言の様に)……そうだ。
女2、突然立ち上がり、財布を取り出す。そのなかから2枚の紙幣を出す。
女1 え?
女2 (紙幣を突き出して)コレ。さっきの抽選の商品券の、代わりだと思って。
女1 でもッ、商品券は招き猫さんにお供えしたんだよ?
女2 (むりやり紙幣を押し付ける)あんなネコに効果があるわけ無いじゃない。どうせその辺りの適当な店でタダ同然で引きとったモノでしょ。
女1 でも、でも、この招き猫のおかげで1等はあたったんだよ?
女2 その招き猫だってほとんど価値の無いもの。100円で同じものが買えるわ。
女1 (手元の紙幣を見つめて)うーん、でもー、そうかなぁ…。
女2 1等をひきよせたのは招き猫じゃなくて、貴方がいつも、お父さんの言う事を守っていたからよ。
女1 ってことは、あの男の人はウソついたの?
女2 ・・・。
女1 (真剣に)招き猫のご利益の話は、本当じゃないの?
女2 (うなづく)。
女1 (落ち込む)そっ…かぁ…。
女2 ……ごめんなさい。
女1 ・・・。
女2 本当なら、私が止めなきゃいけないはずなのに…。でも、私は…。(うつむく)
女1 ……(落ち込んだのを振り払う様に)ううん。いいんだよ。ありがとう!
女2 え…。でも…、
女1 (明るく)私、今までそんな風にごめんなさいって言われた事なかったよ。
だから、すごく嬉しいよ。本当にありがとう。
女2 う、うん……。
女1 だって私、__さんが言わなかったら招き猫信じてたもん。
っていうか、今も信じてるんだけどね♪
女2 信じてるの?
女1 うん!もちろん。だって、どうせ招き猫なんて信じるか信じないかでしょ。
信じるてんだったらきっと効果もあるよ。だからさっきもきっと1等があたったんだよ。
これからも信じれば、また効果があるよ!
女2 うーん、まぁ、貴方がいいならいいんだけど…。
女1 そうだ!!私何かお礼するよ!
我が家の家訓その三!「親切にされたらお礼する!!」
女2 それもお父さんが教えたの?
女1 (笑って)ううん。今作った。
女2 ……そう。
女1 なにがいいかなぁ?私、なんでも__さんの言う事聞くよ!
何がいい?
女2 えっ、いや、だって私が貴方にお礼をしたんだよ。
貴方が、本当に純粋で、騙したくないと思ったから……。
女1 でも、私もお礼しないと気がすまないもんッ!
女2 でも、
女1 お礼するッ!するするするッ!!
女2 (勢いに押されて)えぇ…と、じゃあ、うーん…。
(突然何か思い出したように)じゃ、じゃあ、お願いしよーかな?
女1 もッちろんッ!何?
女2 …そうね。(しばらく考え込む)
……あの男が、人を騙している…っていうか、詐欺師だって事。
誰にも言わないで欲しいの。
女1 ふむふむ。わかった!
女2 だから、私がその事を話したって事も、言わないで欲しいの。
一応あの男に、仕事に関することは誰にも話すなって言われたから…。
女1 うんうん。簡単簡単!あのお兄さんがウソついてたってことを、誰にも言わないで、__さんが何も話さなかったことにすればいいんだね!
女2 うん。いいかな?
女1 もっちろん!じゃあ、指きりしよ!(指を出す)
女2 ゆびきり?(指を出す)
女1 ゆ~びき~りげ~んま~んうっそつ~いたらは~りせんぼんの~ますッ。ゆびきったッ!
よしっ、これでOK!
……。
……って、あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
女2 なっ、なに!?
女1 どどどどどどどど、どうしよー!!??
女2 だから何が!?
女1 も、もし、誰かが、「__さんがあの男の人について何か話した?」って聞いてきたら、
私、「話してないよ」って答えるの!?
女2 うーん、そういうことになるかな?
女1 そしたら、私、ウソつかなきゃいけないの!?
女2 えーっと、……そういうことになるかな?
女1 そそそそそそそ、そしたら、お父さんとの約束はあ!?
女2 えーっと、……どうなるのかな?
女1 うわぁぁぁぁぁぁぁん(突然泣き出す)。うぅぅ…。
女2 (慌てて)ご、ごめんなさい!そんな酷な約束になっちゃうと思わなくて……。
女1 はぅぅ…。
女2 ごめんッ、嫌だったらさっきの約束は止めてもいいよ?
女1 でも、指切りしちゃったもん……。それに、__さんは私に本当のこと教えてくれたし…。
でも約束は守りたいけど、お父さんとの約束もあるし……。
女2 ご、ごめん、本当にごめんなさい!!
女1 うーん、お父さんとの約束も大事だけど、でも、__さんとの約束もお、
うー……。
女2 ほらっ、貴方のお父さんが言った「ウソをついちゃいけない」って言うのは、悪気のあるウソの事でしょ。
相手を嫌な気持ちにさせるんじゃなければいいんじゃないのかな…って、ダメ?
女1 うー、わかんないよー…。
女2 だってお父さんだってたくさんの人に迷惑をかけないために自分で悪いことを全部かぶったんでしょ?
迷惑をかけないためならウソも大丈夫だよッ!……とか。
女1 「悪気の無い、迷惑をかけないウソならいい」…って言ってもなあ…。
女2 後は、ほら、えーっと…。そうだなぁ…、うーん。
女2、何気なく上手を見て凍りつく。
女2 げ……。
男1、上手から登場。
男1 おい、「げ」とは何事だ、「げ」とは。そんなに俺が嫌なのか?
女1 あっ、例のお兄さん!
男1 やっぱりな。どうせこの子と一緒だと思ったよ。
(通販テンションに変わって)それにしてもお嬢さん、「例の」お兄さんとはどういうことかな、「例の」とは?
女1 えっ…(固まる)。
男1 まーさーか、この女が変なこと話したんじゃないよねぇ?
女1 えー、えっ?
女2 ヤバッ…。
男1 (目が笑ってない感じの言い方)俺がいない間に、俺についての噂話でもしてたのかなぁ?
女1 え…。
女2 あっ、あーっ、だから、その、彼女は…。
・・・
男1 お前には聞いてない。この子に聞いてるんだ。さぁ、どうなのかねぇお嬢さん?
この人が何か俺について話したのかなあ??
女1 え…あ……ど………。
男1 さぁ?どーなのさ?
女1 ど、ど、ど、どで、どどどで…。
男1 ん?
女1 ど、どて、どで、どどででで…。
男1 あ?……土手?
女1 ど、ど、ど…。
女2 ちょっと、大丈夫!?
女1 えーっ、あーっ、そーっ、のぉーっ。あー、(意味不明の言葉を言い続ける)
男1 (こらえきれず)よしっ!わかった。じゃあ、もう一度ちゃんと聞こうか。
「この女は俺について何か話をしたのかな?」
女1 うっ…。
男1 どうかなぁ?
女1 し。しー、しー…。
男1 したの?してないの?
女1 あ、あの、その、そのお…。
女1、深呼吸する。
女1 すぅーーーーっ、はぁーーーー……。よしっ!!
し!
男1 し?
女1 し、しー、しまー、しま!
男1 (間髪いれず)「した?」
女1 あ、いや、その、えーっと…。うぅ…(また萎えてしまう)。はぁぁ、お父さん…。
男1 あ?お父さん???
女1 ど、どうしよう……。あ、え、えっとぉ…。
女1、ふと女2の顔を見る。
女1 ・・・。
女2 (すがるような目で見ている)。
女1 ・・・。
男1 (女1の顔を覗き込んで)どした?
女1 …。
……せん。
男1 え?
女1 してません!!
男1 ・・・。
女1 (一気に)この人は、お兄さんについての話は、してませんッ!!
男1 ・・・。
女2 ・・・。
女1 ・・・。
男1 ……そう、か。
女2 あ…。
男1 そういえばさっき、こいつが「あの子は絶対にウソをつくような子じゃない」っていってたもんなあ。
そこまで言い切るんなら、仕方ない、か。
女1 ・・・。
男1 わかったわかった。変に問い詰めたりしてすまなかったよ。
女1 あのぅ…私…。
男1 悪かったね、お嬢さん。
女1 あのっ!…私、帰ります!
男1 ん?帰る?
女1 (慌てて)もう時間も遅いし、お母さんも心配すると思うし。じゃッ…。
女1、走って上手へ去る。
女2 あ、ちょっと…。
男1 ……ふぅ。全く。
女2 え?
男1 ウソ一つつくのに、とんだ苦労だ。なぁ?
女2 え……じゃあ、さっきの子がウソついてたって…。
男1 俺の目は節穴じゃない。あんな話され方して、本当だと思う訳無いだろーが。
女2 ・・・。
男1 でも良くウソをつかせたじゃないか。一体どう言いくるめたんだ、え?
女2 ……あ、その…。…。ごめんなさい。
男1 はぁ。別に構わんさ。どうせお前がいつか口を滑らすとはわかってたし。
女2 …わかってた、の?
男1 だ・か・ら、俺がウソを見逃すわけ無いだろーが。
そうだ、それより。行かなくて良いのか?
女2 へ?どこへ?
男1 はあ?どこへも何も、彼女の所へ、だよ。
あれだけがんばってウソついてもらったんだから、礼くらい言っとけ。
女2 あ…、…ありがとう。
男1 (ぶっきらぼうに)そんなこと言ってる間にいなくなっちまうぞ。とっとと行けよ。
女2 う、うん!
女2、急いで上手へ走っていく。
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【あとがき】
まだここで終わりでは、ありません。
この後、女1と2のシーンがある、はず、なんですが…。
…すいません。展開考えてません。
ってことで、先輩、お願いしますッ!(逃亡)
個人的な話:
389行目、「効果を発揮するゾ☆」書いてて顔から火が出るほど恥ずかしいのですが…。
後この話、下手すると15分で終わりそうな気が…。ひぇぇ。